自然の変化は思ったよりも速い

今の住居に越して来てもう30年以上になる。その間、近くを流れる多摩川近辺はちょうどいい散歩コースでもあり、よく見ていたはずだが、なぜかあまり昔のことははっきりとは覚えていないことに気付いた。もう15年以上(?)も前のことになるが、旧来の堤防を大きく改修し、いわゆるスーパー堤防なるものに造り替えた。その工事のお蔭か(?)2019年台風19号の時の大増水でも決壊・越水には至らず無事に済んだ(最高水位は堤防の天辺まであと1mほどに迫る際どさだったが)。その改修工事の際には昔からあった土手沿いの大きなクルミの木は何本も伐採されて改修後は殺風景な景観になってしまったが、気が付けばいつの間にか若いクルミやヤナギがたくさん育っている。

幅3-400mほどもある広い河川敷にそれまで生えていた多くの植物も堤防改修時に川幅一杯に川底を深く掘り下げる工事のため完全に新しいものと入れ替わってしまった。しかし、いつの間にか元の植物と同じような植物が生えているのだが、よく見るとその後大雨が降り河川敷全体が濁流に洗われた後は必ずと言っていいほど植物の種類に変化があるようだ。しぶとい地下茎を持つススキ・オギ・ヨシ・アシ・クズの類は不動の顔ぶれだが、その他の植物は年によっていろいろ変わっているのだ。春先は一時菜の花やノラボウ菜で一面黄色になっていたこともあるが、近年はそれほどでもなく、5-6月にかけてナヨクサフジの紫色、オオキンケイギクの黄色がめだつようになったが、これも昔の記憶にはない植物で、最初はカラスノエンドウ、キバナコスモスかと思ったくらいだった。しかし、いずれも繁殖力の強い外来植物だった。さらに常連のクズに負けず厄介な蔓を伸ばすアレチウリも新顔だ。また、隠れた人気のある野生のセリ・クレソンなども年によって生える場所が大きく下流の方へ移動している。おそらく増水のたびの上流から下流へと根や種子が流されていくのだろう。そして一時期繁茂して、さらに次の増水でさらに下流へと流れ、新旧が交替するのかもしれない。今育っているクルミも上流から川が種をどんどん運んできた結果だ。もう一つ厄介なのは、コセンダングサだ。至る所に生え、よく河川敷を歩き回る筆者などはいくら気を付けていても秋から春先にかけては知らぬ間に種の運び屋にされ、種蒔きまで手伝わされてしまう。家に帰る前に一応河原で種を取り除く(?)のだが、それもこの植物の術中に嵌っているということだ(笑)。

ナヨクサフジの群落

 オオキンケイギクの群落

また、昆虫類にしてもいろいろな変化があるようだ。そんな河川敷で数年前にコニワハンミョウを見つけ、以来春先にはずっと観察しててきた。それまではただその存在に気付いていなかっただけなのか、その頃の新顔だったのか分からないが、その場所は細かい砂だけが溜まったところがあり、植物があまりなく砂地が露わになっていた。この日その場所に行ったところ、そこには周りから植物が入り込み、以前ほどの広さがなくなっている。そしてコニワハンミョウの姿が見えないばかりか、残された砂地には大小さまざまなすり鉢状の穴がたくさん開いているのだ。

昨年のコニワハンミョウ(メス)

雨の雫の跡などではない。そうだ、アリジゴク(ウスバカゲロウの幼虫)がいるようだ。早速穴を周りから大きく掘ってみると、案の定獰猛そうな奴がいた。一つの穴では小さなバッタの幼虫が穴に落ち犠牲になっていた。一旦落ちるとバッタでもこのすり鉢からは脱出が難しいのか。そう言えば、ハンミョウ類の幼虫も、同じように待ち伏せで獲物を狩るのが得意だった。

 

これまでアリジゴクは神社や寺などの軒下の乾いた土に穴を掘っているのはよく見ていたが、河川敷のような全く覆いの無い露天の砂地で穴を掘っているとは思わなかった。雨が降れば、巣はたちどころに壊れてしまうのに・・・。しかし、器用なもので、前日26日は終日雨が降っていたにも拘わらず、翌日にはもう綺麗に新しいすり鉢穴を完成させている。ともかく、現実には以前コニワハンミョウがいたこの辺りは今やアリジゴクの世界となっていた。
以前ここにはいなかったウスバカゲロウがどこからかやって来て、以前の住人コニワハンミョウはどこかへ消えてしまった。


自然の変化は思ったよりも速い。

(Henk)

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