最後の1頭の門出
3月に入りコムラサキの冬眠幼虫が次々と目覚め、台座を離れて樹冠に向かって登って行くものが急に増えてきた。そして、この日は運がよかったのか、最後の最後まで残っていた1頭が活動を開始する場面に偶然巡り合うことができたのだ。昨年の経験からすれば、この時期にはもう全て台座を離れてしまっているだろうと思いながら、一応ダメもとで様子を見に行っただけだった。この日最初に見た時にはまだそれまでと同じように顔を伏せたままの状態だったが、そのうちにモゾモゾと頭をもたげ、体をくねらせ、あれよあれよという間に台座からの離脱完了。そして、迷いもせずに枝先へと登って行った。最後の1頭の門出だ!この間、約10分。以下の一連の写真がそれだ。





思えば冬場の長い間の観察だった。昨年12月の初めから、ヤナギの樹皮の割れ目で冬眠態勢に入った幼虫を見つけ出し、それぞれに番号を付ける。今年は総数で昨年の倍以上、100頭を超えた(Sさん発見分と合わせて)。その後、定期的な観察が始まった。というより、最初のうちは生存確認が主目的だったが、2月頃からは一部のものが覚醒し始めていろいろな動きをし始めるので、覚醒の様子の観察が主となった。台座にいるままで触角を上げ下げしたり、体の位置を少し変えたりしている。運よくその場面に出会わない限り、そんな動きをしないままジッとし続けていたものと思ってしまうかもしれないが、実は人知れずいろいろな動きをしていることも分かってきた。大きく上半身をのけ反らせたり、上下の位置を変えていたりもしていた。この上下逆転については先日記事を書いた通りだ。台座を離れる頃になると、体色も変わってきて、黒褐色だったものが薄い色に、また緑っぽく変化したりもする。体も幾分ほっそりして体長も少し伸びたようにも見える。こうなると離脱が近いことを思わせるが、こちらの予想に反してなかなか離脱しないものもいる。かと思えば、色も全く変わらず、体の動きも殆どないものが、いきなりいなくなっていることもある。やはりこれも個体ごとの個性なのか、とも思わざるを得ない。昨年は離脱の瞬間を目撃できたのはたった1例だけだったが、今年は頻繁に観察していたこともあってか何例も見ることができた。その意味で今日はシーズン最後の離脱の見納めとなった。今思えば、離脱はいずれも太陽を真後ろから背に受けている時間帯が多かったように思う。
今年はなかなか暖かくならない。そう思って比較のため昨年の写真を見てみると、昨年の3月24日には近所のソメイヨシノは既に満開を過ぎ葉桜になりかけている。3月上旬に同じ場所で採った幼虫も我が家の飼育環境ですくすく育ち2cm以上にもなっていた。その頃はヤナギも若葉を茂らせておりエサの確保にも何ら困らなかった。それに比べて、今年はどうだ・・・。
昨年の様子(3月24日)

昨年の飼育中の幼虫(3月23日)
それに比べると、今年は自然の歩みが10日以上遅い感じもする。だからヤナギもまだやっと芽が出かかったばかりで、2月末頃から早々と樹冠に上がった幼虫たちは枝先でエサが食べられずに困っていたはずだ。そのことからすると、この日離脱した最後の1頭が一番賢かった(?)のかもしれない。それとも、先に枝先に上がっていると、生存競争で何か特別に有利なことでもあるのだろうか。幼虫に聞いてみないことには分からないが。
(Henk)

